2012年2月18日土曜日

1949 Paris

1949年5月、ケニー・ドーハムを入れたチャーリー・パーカーのレギュラー・クインテット、及びタッド・ダメロンとマイルス・デイビス、ケニー・クラーク、ジェームス・ムーディ、シドニー・ベシェ、ホット・リップス・ペイジ、ラッセル・ムーアらは、パリ国際ジャズフェスティヴァルに出演すべくパリに到着し、熱狂をもって迎えられた。
この2枚組CD「Bird in Paris」にはその時のチャーリー・パーカークインテットの演奏のうち、5月8日と9日に「Salle Pleyel」のホールにおいて行われた「Festival International de Jazz」のもの、そして12日に北部の街ルーベで行われたコンサート、再びパリに戻り14、15日に「Salle Pleyel」にて行われたコンサートの模様が収録されている。
8日から15日までの一週間で25,000人が来場したというこのフェスティヴァルの熱狂っぷりは凄まじく、CD1では熱狂する聴衆に呼応してパーカークインテットの演奏も過熱していく様子が伺える。
マイルス・デイヴィスによるとこのフェスティヴァルにはパブロ・ピカソやジャン・ポール・サルトルも訪れていたという話である。
CD1の最後(トラック16)にはフェスティヴァル最終日のフィナーレとして、パーカー、マイルスを始めとするアメリカから来たミュージシャンとヨーロッパ各国のミュージシャンによるオールスターによるジャム・ブルースが収められている。ちなみにジャズ・ハーモニカ奏者として知られるトゥーツ・シールマンスもギタリストとして参加しているようだ。
CD2はトラック1-8(MP3では17-24)がローベにおけるコンサートで、パリの物より音質は劣るが内容は遜色なく素晴らしいものである。トラック9(25)には翌1950年11月に単身でスウェーデンにおいてツアーを行った後にパリを訪れた時のもので、モーリス・ムフラールのビッグバンドとの演奏である。
CD2のトラック10(26)以降はボーナストラックであり、10-13(26-29)は1949年2月にメトロノーム・アワードのTV放送から、シドニー・ベシェ、ジョー・ブッシュキンなどスウィング畑のプレイヤーとの演奏である。
14-17(30-33)はCBSの「Adventures in Jazz」というテレビ番組から。このセッションの最大の聴き所は、マイルス、パーカー、カイ・ウィンヂングらビバップ勢とマックス・カミンスキー、ジョー・マーサラ、ウィル・ブラッドレーらシカゴ/ディキシーランド勢が一堂に会し、「ディキシーランド・バップ」と銘打って演奏される「Big Foot」である。マーサラ→パーカー→カミンスキー→マイルスといった風にディキシーとバップのミュージシャンが交互にソロを吹いて行くというセッションは番組のタイトル通り冒険的である。
18-21(34-37)は「Broadway Open House」というNBCのバラエティショーへ出演した時の録音である。詳しいパーソネルは不明だが、スタンダードナンバーである「Orange Colored Sky」や「Shanghai」などの作曲者であるミルトン・デ・ラグのアコーディオン、タップダンサーのレイ・マローンらと共演している。「Donna Lee」ではパーカーがタップダンスと4小節交換をするなど大変珍しい記録である。



さて、1949年のパリ国際ジャズフェスティヴァルにおいてアメリカからもう一つ出演したビバップバンドがタッド・ダメロンとマイルス・デイヴィスの双頭クインテットである。
このクインテットはマイルス・デイヴィス、タッド・ダメロン、ジェイムズ・ムーディ、ケニー・クラークという4人のミュージシャンにフランス人?ベーシスト、シュピーラーを加えたもので、彼らの演奏模様は「Paris Festival Internationale de Jazz」というアルバムに収められている。
シュピーラー(Spieler)というベーシストはプログラムにも《bass》SPIELERとだけ記されているものであり、spielerとはドイツ語で演奏者を意味するものである事からも偽名と考えられる。マイルス・デイヴィスの自叙伝によるとどうやらこのバンドのベーシストはフランス人のピエール・ミシュロだったそうだ。

ピアニストでありビバップ作編曲家であるタッド・ダメロンの録音は殆どがオリジナル曲の演奏だが、このアルバムは彼のスタンダードにおける演奏が聴ける貴重なものでもある。
下記に記した譜例はこのアルバムに収録されている「Don't Blame Me」におけるダメロンのイントロだが、バリー・ハリス・ワークショップの熱心な受講生であるならすぐピンと来るだろう。
1,2小節目のヴォイシングや3小節目のブロックコードなど、バリーがピアノワークショップで教えているテクニックばかりである。バリーの教えている理論はパウエルだけでなく、ダメロンからの影響も大きいということが伺える。

Don't blame me - intro by tadd dameron

2012年2月9日木曜日

Eternity

Eternityは2004年にアメリカのPiadrum Recordsから発売されたバドの未発表録音集。
全てパリのフランシス・ポードラのアパートにおいて1961~1964年の間に録音されたもので、以前発表された同種の録音、Mythic RecordsからリリースされたCD,LP及び、Fontana(Black Lion)からリリースされたアルバム「Strictly Confidential」には収録されていなかったものである。全てJazzdisco.orgのディスコグラフィー及び筆者所持の他のディスコグラフィーにも記載されていない。

Track List
1.Spring is Here
2.Shaw' Nuff
3.A Night in Tunisia
4.Josua's Blues
5.'Round Midnight
6.I Hear Music
7.Someone to Watch Over Me
8.I'll Keep Loving You
9.Idaho
10.Blues for Bouffemont
11.Deep Night
12.But Beautiful
13.Mary's Improvisation

同時期のパウエルが好んで演奏していた曲が中心だが、トラック4と13における未発表のオリジナル曲、8も録音が少ないオリジナル曲であり、12はスタンダードナンバーだが他に録音が残っていないものであるなど資料的価値も高い。
特にスタンダードナンバーであるTenderlyからインスピレーションを得たというMary's Improvisationには他では聴く事が出来ないバド・パウエルの創作風景がまざまざと思い浮かぶような演奏である。
バド・パウエルの膨大な未発表録音を持っていたフランシス・ポードラの死後、その録音テープはポードラの自殺の一因ともなった彼の自宅の火災によってほとんど焼けてしまったと言われていた。
だが、こうして彼の死後にコレクションがリリースされたということは、未発表テープがまだ現存するという証拠であり、(もし他のテープが残っているのだとしたら)今後のリリースにも期待できると言えるだろう。

バド・パウエル初期〜全盛期(1944-1951)のライブ録音について

バド・パウエルの録音時期について前回のエントリで触れたが、その中でも初期〜全盛期(1944〜1951)のライブ録音について触れておきたい。
CD、レコードではどれも廃盤として入手困難になったものばかりだが主に次のものが挙げられる。


Earl Bud Powell, Vol. 1 - Early Years Of A Genius, 44-48 (Mythic Sound) LP,CD
All Stars X'mas Concert (Norma) CD
New York All Star Sessions (Bandstand) CD
Charlie Parker At Birdland Volume 1,2 (Ember) CD

 「Earl Bud Powell, Vol. 1 - Early Years Of A Genius, 44-48」はイタリアのMythic Soundから20年ぐらい前だろうか、バラ売りあるいはCD10枚組、LP11枚組セットで販売されたものの中の1つ。
筆者が持っているのはLPセットの方だが、曲目を紹介すると
1.Introduction
2.West End Blues (J.Oliver, C.Williams)
3.Perdido (J.Tizol, E.Drake)
4.When My Baby Left Me (E.Vinson, C.Williams)
5.Royal Garden Blues (S.Williams, C.Williams)
6.Roll' Em (M.L.Williams)
7.A - Tisket A - Tasket (E.Fitzgerald, A.Feldman)
8.Do Nothin' Till You Hear fromMe (D.Ellington)
9.Smack Me (D.R.)
10.Air Mail Special (C.Christian, B.Goodman, J.Mundy)
11.One O'clock Jump (W.Basie)
12.Introduction
13.Perdido (J.Tizol)
14.Indiana (B.McDonald, J.F.Hanley)
となっており、1-2はテレビ番組「カナダ・リー・ショウ」から1944年7月4日のクーティ・ウィリアムスとのデュオ、3-5は1944年春頃のニューヨークのアポロ劇場、サボイ・ボールルームからのラジオ放送を録音したものでパーソネル不明。6-11はAFRS(つまり今のAFN)のラジオ放送の録音でクーティ・ウィリアムス楽団によるもの、7と8にはエラ・フィッツジェラルドも加わっている。12-14は1948年12月19日のロイヤル・ルーストからのラジオ放送でベニー・ハリス、J.J.ジョンソン、リー・コニッツ、バディ・デ・フランコ、バド・ジョンソン、セシル・ペイン、チャック・ウェイン、ネルソン・ボイド、マックス・ローチらとの演奏である。
このアルバムはビッグバンド等大編成バンドの演奏が中心であるため、バド・パウエルのソロは少ないが、3のPerdidoなどで彼がスウィングスタイルでピアノを演奏しているなど最初期のバド・パウエルを知ることのできる貴重な資料となっている。また1のイントロダクションでクーティ・ウィリアムスが「Buddy Powell」と呼んでバドを紹介していることも当時を偲ばせる(クーティ・ウィリアムスは彼の事をバディと呼んで可愛がっていた)。


「All Stars X'mas Concert」は1949年12月25日にカーネギー・ホールで行われたクリスマスコンサートの模様を収めたアルバムである。
参加アーティストはバド・パウエル、マックス・ローチ、カーリー・ラッセルのトリオとそれに加えてマイルス・デイヴィス、ソニー・スティット、ベニー・グリーン(tb)、サージ・チャロフを加えたマイルス・デイヴィス・セプテット。
スタン・ゲッツ、カイ・ウィンディング、アル・ヘイグ、トミー・ポッター、ロイ・ヘインズから成るスタンゲッツクインテット。
サラ・ヴォーンとジミー・ジョーンズ(b)のデュオ、リー・コニッツ、ウォーン・マーシュ、レニー・トリスターノ、ジョー・シュルマン、ジェフ・モートンのトリスターノクインテット。
そして先ほどのゲッツクインテットのフロントをチャーリー・パーカー、レッド・ロドニーに入れ替えたチャーリー・パーカークインテット。という錚々たるバンドばかり。
この中でバド・パウエルはトリオでAll God's Chillun' Got Rhythm、マイルス・デイヴィスのバンドでMove, Hot House, Ornithologyを演奏している。どれも素晴らしい演奏だが、特にトリオのAll God's Chillun' Got Rhythmは「Jazz Giant」の演奏をはるかに超えるテンポで超絶技巧を披露している。


「New York All Star Sessions」に収められている演奏は1953年のバードランドにおけるトリオセッション、及びそれにディジー・ガレスピーを加えたカルテットでの演奏が5曲と前述のカーネギー・ホールのクリスマスコンサートからOrnithologyを除いた3曲と、上記の1948年のロイヤル・ルーストでの演奏と同日のものと思われるJumpin' with Symphony Sidと52nd Street Themeが収められている。
とくにこの1948年のセッションの52nd Street Themeはバド・パウエルのソロを全編にわたってフィーチャーしたものであり、ファストテンポで長尺の素晴らしいソロを披露している。また他のバド・パウエルの演奏では聴かれないようなフレーズも多い。


最後の「Charlie Parker at Birdland Vol.1,2」は1950~1951年にバードランドからラジオ放送されたチャーリー・パーカー名義のセッションを集めたCD各2枚組の計4枚。
この中でバド・パウエルが参加しているのは、1950年5月15,16日のファッツ・ナヴァロ、チャーリー・パーカー、カーリー・ラッセル、アート・ブレイキーらとのセッション及び1951年3月31日のディジー・ガレスピー、チャーリー・パーカー、トミー・ポッター、ロイ・ヘインズらとのセッションである。



上記のセッションが収録されたCDの中で入手可能なもの、再発等

1948年ロイヤル・ルーストにおけるセッションは、2004年にPabloレーベルから発売された「Bud Powell - Bebop」というCDの中において、上記のCD、LPに未収録だった曲と共に収録されている。


チャーリー・パーカーの1951年のセッションは2009年にRare Live Recordings(RLR)レーベルからリリースされた「Charlie Parker & Dizzy Gillespie - Complete Live at Birdland」というCDで入手可能なようだ。
また1950年のセッションも「Charlie Parker/Fats Navarro/Bud Powell - Complete Live at Birdland」というCDが2009年に同RLRから発売されているが、こちらの方が入手困難かもしれない。
なお「Charlie Parker at Birdland Vol.1,2」はiTunesやAmazonでMP3がダウンロード販売されているので目当てのセッションだけ買っても良いだろう。
 

The Amazing Bud Powell Vol.1

各レーベルからリリースされている(されていた)バド・パウエルの録音は1944年から1965年までの21年間にわたるものでありますが、この21年間はだいたい3つの期間で区切る事ができるでしょう。
1つは初期から全盛期にあたる1944~1951年、2つめは1951年からの入院以降、つまり1953年~1958年、最後がヨーロッパ移住以降の1959年~1965年です。
そしてこの1951年にリリースされた「The Amazing Bud Powell Vol.1」に収録されている同年のセッションはいわば最初のピリオドの一番最後の録音です。

このアルバムは1949年8月9日のクインテット及びトリオのセッションと、1951年5月1日のトリオセッションの2つが収められていますが、この後1951年夏から彼はアルコール及び麻薬の依存症の治療のためクリードモア州立病院に入院、電気ショック療法を受けるなどし、次に演奏活動に復帰したのは1952年12月11日にバードランドにて、録音が残っているのは1953年2月7日からとなっています。
確か現在手に入るRudy Van GelderリマスターのCDだとトラック1-11に1949年のセッション、12以降が1951年と前後で分かれていたと思います。
パーソネルは1949年がFats Navarro(tp), Sonny Rollins(ts), Tommy Potter(b), Roy Haynes(d)で、1951年がCurly Russell(b), Max Roach(d)です。
1949年セッションのソニー・ロリンズは若干18歳で、彼の録音では最初期のものでしょうか。一方ファッツ・ナヴァロは翌年1950年に結核で亡くなっています。1951年のセッションはお馴染みのリズムセクションですね。

下に載せたのは1951年のセッションから彼の代表曲「Parisian Throughfare」のソロです。この5コーラスとちょっとのソロの中には彼の代表的なフレーズ、イディオムがみっちり詰まっていますのでとても参考になります。
またこの曲のテーマで彼はダンパーペダルを効果的に使っているのですが、それはまた今度。

  Bud Powell - Parisian Thoroughfare

2012年2月8日水曜日

Stop for Bud


バド・パウエルは1962年の春頃にコペンハーゲンに滞在し、アルバム「Bouncing' with Bud」(Sonet)を録音、また有名なジャズ・クラブ「カフェ・モンマルトル(Jazzhus Montmartre)」へ出演した。このショートフィルムも同時期デンマークの映画監督ヨルゲン・レス(Jørgen Leth - 英語版Wikipedia)および撮影監督、写真家のオレ・ジョン・ポールセン(Ole John - IMDB)によって撮影されたものと思われます。

この映像で特筆すべきは音楽でしょうか、前半は「I'll keep lovin' you」、後半は「Oblivion」が用いられているが、バド・パウエル本人による演奏のI'll keep lovin' youの録音は、1949年のアルバム「Jazz Giant」に収録されているソロピアノのもの、1960年代にフランシス・ポードラ邸で録音された同じくソロピアノのものしか存在しておらず、この映像に使われている演奏はトリオによる唯一の貴重な録音です。
サイドメンは上述のアルバムと同じくNiels-Henning Ørsted Pedersen(b), William Schiøpffe(d)。

またデクスター・ゴードンによるナレーションでは、バド・パウエルに関する二つのエピソードが語られてますね。
ひとつはアート・テイタムがバドに「何で君は左手を使わないんだ?」とケチをつけられたという有名な話。もうひとつはバドがハーレムのアポロ劇場での公演中、聴衆に向かって「俺が最低賃金で働いてる間に、ジョージ・シアリングは週3000ドル稼いでる。不公平だ」と不平を言ったという話。

 「バドはピアノに新しい音楽(ビ・バップ)のアイディアを取り入れたんだ、それはどれも全てのピアニストの手本となった」-デクスター・ゴードン